似合わなくなった「過去の服の清算法」について書かれた前著、「服を買うなら、捨てなさい」が大ヒットした、スタイリストの地曳いく子さん。
その彼女が、楽に効率よく「おしゃれパワー(体力、気力、財力)」を使って「スタイル」を見つける方法について書いたのが、この本です。
自分のスタイルの見つけ方から、自分とは違う人とのつきあい方までが、実に明快に痛快に書かれた、大人のための、着かた、生きかたの指南書です。
まず、ガツンと揺さぶられたフレーズを2つ。
おしゃれとは、そもそも「ムダなもの」。
そもそも、おしゃれは嗜好品です。
ファッション指南書なのに、身も蓋もない(笑)
でも、「何を着たらいいのか分からない!きーっ!」となっているとき、このフレーズを思い出せたら、ちょっと楽になれると思ったのです。
もちろん、ムダで嗜好品だから、ないがしろにしていいのよ、という話ではありません。
1つめのフレーズは、第2章の「おしゃれな人は、力の抜きどころを知っている」という項目のところで出てきます。
これは、第1章で述べられている、「選択」と「集中」の重要性の話がここに繋がってきています。
それはどういうことなのかと言うと、
大人になって仕事を持ったり家庭を持ったりすれば、自由に使える時間は限られてきます(中略)。そんな中では特におしゃれなんて、優先順位が低くなって当たり前です。とのこと。
それでもおしゃれでいたいのなら、要領よくやるしかありません。
(中略)
嫌いなものや苦手なものに構っている暇なんて、本当にないのです。
おしゃれが上手な人は、力の入れどころ、抜きどころを心得ていて、エネルギーを要領よく使っているのだそう。
しかし、エネルギーを要領よく使っているというのは、必ずしもストイックにムダを省くということではない、としたうえで、先ほどのフレーズが出てきます。
おしゃれとは、そもそも「ムダなもの」。
水や食べ物のように、人間が生きていくのに欠かさない必需品というわけではありません。なのに、なぜ私たちがわざわざ美しく装いたいと思うのかというと、心を満たし、人生を豊かにしたいからでしょう。
(中略)
おしゃれな人が、エネルギーのムダ使いをしていないのにちゃんとおしゃれという素敵なムダを楽しめているのは、ただ「無理」とか「やりすぎ」とか「不自然」といった、「野暮なこと」をしないようにしているからです。
野暮を避ければ、そこにはちゃんとした「おしゃれの基礎」ができます。そうして余裕が生まれたところに、ほんの少しのムダ(トレンドなど)という遊び心を入れて楽しんでください。
それこそが「粋」というものです。
要領よくすることと、ムダの使い方。
これは、ファッションだけでなく全てにおいて言えることでしょう。
生活に必要なものしかないインテリアより、花一輪でもポストカード1枚でも飾ってある方が楽しいものです。
しかし、ものが溢れすぎる中にあっては、どんな美しい花も埋もれてしまう。
かつて、「トリビアの泉」というテレビ番組は、生きるのにちっとも役に立たないムダ知識を楽しめるということで人気がありました。
生きるのに必要な知識を習得する方がもちろん重要なのですが、そのムダ知識によって、生きるのに必要な知識の習得が進んだり広がったりすることがあります。
いつも思うことなのですが、このさじ加減がとても重要で、この加減の仕方こそ、身に付けたい最大のポイントなのです。
2つめのフレーズは、第4章の「間違えたら、潔く次に行く」という項目のところで出てきます。
買い物とはすなわち「選択」であり、人生もまさに、この選択でできているようなもの。
そして「絶対正解」のゴールはない。
それなら何を基準にするかというと、自分自身の「心のコストパフォーマンス」である、としたうえで、こう続きます。
そもそも、おしゃれは嗜好品です。
私たちが、食べることもできない花を飾ったり、単にお金を出し入れするだけのお財布にこだわって大枚をはたいたりするのはなぜかというと、心が満足するからですね。
(中略)
ですからおしゃれの買い物は、一生ものだとか、お買い得だとかいうことより、自分の心のコストパフォーマンスに見合ってさえいれば、それでいいのです。
この2つのフレーズの項目はそれぞれ、「おしゃれな人が、やっていること・しないこと」「これからの着かた、生きかた」という別々の章に出てきてはいますが、フレーズの後に共通して出てくる言葉があります。
それは「心の満足」。
これを得るためのヒントとして、今の社会において、いや、本当は昔だって備えておきたかった考え方が提示されています。
それは、
自分の世界と違うものは、放っておくということ。
私たち大人が、これからの人生をより自分らしく、満足して生きていくためのルール。
それは、「自分とは違うな、合わないな」と思ったものは、もう放っておきましょうということ。人間関係も、ファッションも、です。
自分と違うことを放っておけないことは、自分を苦しめます。「なんでじゃなくて、そうだから」。それだけのことなのです。
また、
「人とは違う」を受け入れたところから、すべてが始まるとも述べられており、こう続きます。
人はひとりひとり、違っているもの。そう。それだけ。
人と自分は違うのが当たり前。
「なんでみんなと違うんだろう?」「だって違うから」。それだけです。
でもたったそれだけのことに、なぜか気づけないことが多いのです。
なお、
無理にみんなと足並みを揃える必要がないのと同じく、無理に違おうとする必要もないと補足されています。
ファッションの話でありながら、同時に生きかたについても同じことが言える。
すなわち、
「生きる」と「着る」は、同じなのです。
少し哲学的なことが先に来てしまいましたが、もちろん、もっと具体的なファッションテクニックについても書かれています。
第2章「おしゃれな人が、やっていること・しないこと」の中では、「コンフォート・ゾーン」という考え方が紹介されています。
コンフォート・ゾーンとは、その人が、自分にとって無理や負担がなく、着ていて気分が上がるおしゃれがどこからどこまでなのかを示すゾーニングです。それを踏まえたうえで、ではおしゃれ度をアップするにはどうしたらよいのか。
その人が持つ「体力+気力」「お金」「時間」という3つの要素、そこに「好み」「場と相手」というオプションを加えて考えます。
それは、「コンフォート・ゾーンのちょっと上」を目指すこと。
つねに「ボトムを上げる」意識は必要ですが、それと同時に、早く上へ飛び上ろうと考える前に、まず減点される要素を減らすことだとしています。
いくら素敵な服を買い足したところで、ダサい服を捨てずについ着てしまったら「ときどきおしゃれな日もあるけれど、ダサい人」。買うよりまず、クローゼットの中のダサい服を捨てれば、それだけでダサい人ではなくなり、それがさらに上へいこうとする活力にもなります。
また、第3章「スタイルの見つけかた」では、より具体的な自分のスタイルを知るための3つの手がかりについて書かれています。
1つ目は「体形とサイズ」。
体形について何らかの悩みを持つ人(持たない人の方が少ない気がしますが)には、是非この項を一読することをおすすめします。
2つ目は「テイスト」。
自分の得意なテイストのつかみ方について、
30歳を過ぎたら、「好きなものの中から似合うものを選ぶ」のではなく、「似合うものの中から好きなものを選ぶ」というのが、私はいちばん合理的だと思います。と書かれていたのには、その手があったか!と膝を打ちました。
ちなみに、自分のテイストと反対のものを着たくなったときの救済方法についても書かれていますのでご安心を。
3つ目は「ライフスタイル」。
これは先の「コンフォート・ゾーン」と深く関わってきます。
服とはそもそも、「着る目的と着て行く場所あってこそ」のもの。今着る服は、今の生活とリンクしたものでなければ意味がないのです。ワードローブにおける「いつか着る日が来る」という幻想。
だから、今着て行く場所がない服、ライフスタイルに沿っていないものは、いらない服。そういう服を、あなたのワードローブや購入計画から削ぎ落としていけば、今のあなたに必要なものだけが残るはずです。
私にも覚えがあります。
決してミニマリストになりたいわけじゃなく、ワードローブの全てを一軍選手にしたい。
そう思った私が最近進めてきたことが、まさにこの、ライフスタイルに合わなくなった服を処分することでした。
そしてもうひとつ。
こうして考えていくと、おしゃれの幅はけっこう狭まってしまうかもしれませんが、むしろそれだけムダが省かれ、焦点が絞られたということ。あまりにも選択肢が広すぎるとかえって戸惑ってしまいますが、その幅の中でおしゃれをすればいいと考えると、逆に分かりやすくなるでしょう?制限がないということが必ずしも幸せなことではない、ということの、一つの例だと思います。
「制限がある」と聞くと、マイナスのイメージを抱きがちですが、実はそれが却ってプラスに働くことは、これに限った話ではありません。
「コンフォート・ゾーン」の考え方で出てきた「体力+気力」「お金」「時間」の3要素についても、余裕があるのはいいことですが、有り余ると気が緩みやすくなるので、むしろある程度制限があるほうが、真剣に検討する分、正しい選択ができる、ということも、これと同じことです。
この本全体を通じて感じたことは、「もっと肩の力を抜いてもいいんだ」ということでした。
自分ではどうにもできなかったり、無理をしなければいけないことに力を入れるより、自分に余計なものをそぎ落としてブラッシュアップする方が先、つまり足し算より引き算が先で、まさに「服を買うなら、捨てなさい」なんですね。
地曳さんはこの本の中で一貫して、「今の自分に向き合おう」、そして「今の自分を愛しませんか?」と、語りかけています。
そして、その方法を提示してくれています。
その方法は、決して難しいものではなく、むしろ肩肘張って行うものではありません。
だから、もっとおしゃれに、もっと素敵になりたい、と気張っていた私にとっては、ストンと、肩の力が抜ける思いがしたのです。
ファッションに迷子になってしまった人はもちろん、今の生きかたに息苦しさを感じている人へお勧めの1冊です。